410人が本棚に入れています
本棚に追加
振り下ろされる剣戟。
迷いも何もなく、感嘆の溜め息が漏れるほどに美しい一刀は……しかし。
「―――ぇ…」
アーチャーに届く事はなかった。
まるで彼の周りだけ時間が止まってしまったかのように、士郎は微動だにせず、深く目蓋を閉じると…。
静かに双剣を仕舞った。
真意が分からない。
アーチャーの混乱はここに来て再度最高潮に達したと言ってもいい。
だが、そんな彼女など意に介さず…。
「行け」
短く、アーチャーに背を向けながら魔術師が言い放った。
分からない。
分からないが……行って良いと言うなら、願ったり。
彼女の懸念は最初から己がマスターの安否だけなのだ。
すぐに立ち上がり、道場へと足を踏み出した刹那…。
「―――ッ!!」
全力でその場から飛び退く…!
瞬秒の後、先までアーチャーが立っていた地を焼き払う収束魔術!
「誰ッ!?」
「敵…?」
驚いたのはアーチャーよりも士郎だ。
魔術師の家には必ず結界が張られており、望まれぬ来訪者には反応し、その侵入を家主に知らせる筈…。
それが発動しなかった…?
力ずくで破られた形跡はなく、解術された様子もない。
つまり、敵は……。
――結界が認識出来ないレベルの気配遮断スキルを持っているという…。
「アサシンか…!」
急ぎ、仕舞い込んだばかりの双剣をイドより組み上げ、八節の工程を以て投影する。
同時に、士郎へと殺到したのは4つの魔力球だった。
左右前後…まるで各々が意志を持つかのような弾道を双剣で弾く…!
その間に、アーチャーは敵の位置を探り……見つけた。
塀の上。
月光を背に纏い、若き暗殺者は吊立していた…。
「アサシンのサーヴァント…」
自身の宝具を構え、アサシンのサーヴァントと対峙する。
とはいえ疲弊した身でどれほど戦えるのかは……不明だが。
「――――」
「――――」
流れる沈黙。
睨み合う両者は互いの出方を伺うように動かず、その時を待っていた。
機を見誤らぬよう…。
いざとなれば塀を破壊してでもアサシンを撃つ。
だが、その沈黙を破ったのは…。
「アーチャー!上だッ!!」
「ぇ?」
最初のコメントを投稿しよう!