第六章~自身の在り方~

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振り下ろされる剣戟。 迷いも何もなく、感嘆の溜め息が漏れるほどに美しい一刀は……しかし。 「―――ぇ…」 アーチャーに届く事はなかった。 まるで彼の周りだけ時間が止まってしまったかのように、士郎は微動だにせず、深く目蓋を閉じると…。 静かに双剣を仕舞った。 真意が分からない。 アーチャーの混乱はここに来て再度最高潮に達したと言ってもいい。 だが、そんな彼女など意に介さず…。 「行け」 短く、アーチャーに背を向けながら魔術師が言い放った。 分からない。 分からないが……行って良いと言うなら、願ったり。 彼女の懸念は最初から己がマスターの安否だけなのだ。 すぐに立ち上がり、道場へと足を踏み出した刹那…。 「―――ッ!!」 全力でその場から飛び退く…! 瞬秒の後、先までアーチャーが立っていた地を焼き払う収束魔術! 「誰ッ!?」 「敵…?」 驚いたのはアーチャーよりも士郎だ。 魔術師の家には必ず結界が張られており、望まれぬ来訪者には反応し、その侵入を家主に知らせる筈…。 それが発動しなかった…? 力ずくで破られた形跡はなく、解術された様子もない。 つまり、敵は……。 ――結界が認識出来ないレベルの気配遮断スキルを持っているという…。 「アサシンか…!」 急ぎ、仕舞い込んだばかりの双剣をイドより組み上げ、八節の工程を以て投影する。 同時に、士郎へと殺到したのは4つの魔力球だった。 左右前後…まるで各々が意志を持つかのような弾道を双剣で弾く…! その間に、アーチャーは敵の位置を探り……見つけた。 塀の上。 月光を背に纏い、若き暗殺者は吊立していた…。 「アサシンのサーヴァント…」 自身の宝具を構え、アサシンのサーヴァントと対峙する。 とはいえ疲弊した身でどれほど戦えるのかは……不明だが。 「――――」 「――――」 流れる沈黙。 睨み合う両者は互いの出方を伺うように動かず、その時を待っていた。 機を見誤らぬよう…。 いざとなれば塀を破壊してでもアサシンを撃つ。 だが、その沈黙を破ったのは…。 「アーチャー!上だッ!!」 「ぇ?」
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