第六章~自身の在り方~

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まずい…。 それに気付いた士郎はただ早かった。 双剣を棄て、最速で自己の裡に没頭する。 あれだけの魔力球を全て消滅させるには螺旋剣に最大魔力を篭めなくてはならないだろう。だが、それでは時間は足りない。 あの様子から考えてもアーチャーは保って数十秒……ならば。 「I am the...」 詠唱と同時。 士郎の右手より七色の閃光がアサシンへと駆け抜けた。宝石魔術……その使い手は、士郎の知る限りこの屋敷には一人しか存在しない。 「……まったく…人ん家の庭先で何してくれてんだい?」 遠坂 凛。稀代の魔術師は如何にも不機嫌だと言わんばかりの表情で闖入者を睨みつけていた。 対するアサシンも宝石魔術の全てを回避した後、距離を離した。 「次は私と一手遊んでくかい、小娘」 これで三対一……サーヴァントであろうとも、単体ではこの戦力差は覆せまい。 だというのに、アサシンである少女は焦る素振りも見せずに一度だけ敵対する三人を見渡すと…。 「分が悪い……いいわ。とりあえず引いてあげる」 不遜に言い捨てたや否や、塀を飛び越えてアサシンの姿は消えた。 その引き際の良さに驚いたのは無論、士郎とアーチャーだ。 如何に凛が加わったとしても、疲弊した二人など最早物の数ではないだろうに…。 と、そこまで考えたが凛を見てあぁ、と得心する。 ――そりゃあんなに宝石を持ち出されたらアサシンでも引け腰になるよな(よね)…。 服のあちこちから覗く宝石の数々。 ケチな凛が全てを使う筈もあるまいが、凛の性格を知らないアサシンならば、あれを見て逃げたのは懸命な判断だっただろう。 逆を言えば凛はそれを利用したのだろうが…。 「……とりあえず、あんたらは家に戻りな。色とセイバーももう戻ってるから」 そのやけに迫力ある一言に一抹の不安を抱きつつ、二人は指示通りに家に戻るのだった。
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