◆将来の夢◆

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母が書いたのは、フリフリのワンピースを着て、髪をふわふわとセミロングまで伸ばして、スポットライトを浴びながらマイクを持って、可愛らしく歌っている女の子だった。 まわりには音符まで飛んでいる。 「これ誰?」 「歌手よ」 「これあたしじゃないよ」「そうよ」 それから母はまた、さらさらと紙に机に向かい、大きな羽根ペンを持って何かを描いている、長い髪の女性を描いて 「これはね小説家」 「よくすらすら描けるね」「そりゃそうよ。お母さんは漫画家になりたかったもん」 母は絵も文章も得意だったのだ。それから歌も。 母は、こうやって描きなさいと『お手本』らしき2枚の絵を置いて、出ていってしまった。 私はなんとなくその絵が好きじゃなかったが、しかたなく母の描いた絵を描き写すことにして、なんとか描きあげ、母に見せると 「お母さんが描いた絵のままじゃない」と怒られた。「どうしたらいいの」 そうね…と考えた母の出した答えはこうだった。 「テレビ見ながら描いたら描けるかもよ」 そういうわけで私は、座敷のテレビを見ながら宿題をすることになった。 何度も何度も失敗しながら描いていたが、どうも気に入らない。 仕方がないので、他の番組を見ようとチャンネルを変えた。 画面では、体操の選手がまさに今、床運動をしようとしていた。 あまりの優雅さに、ついつい見入ってしまった。 何を思ったか私はそのまま、画用紙にその選手を一生懸命描いていた。 テレビの画面そのままのそれは、 バンザイの格好で両足を前後に開いて高くジャンプしているポーズだった。 もう私にとっては、テーマなんかどうでもよかった。とにかく絵を描いた、それだけの事実で満足だったのだ。 私は絵の具を準備すると、テレビの画面そのままの色を塗り、裏に名前を書いて絵は完成した。 翌日。 ひとりずつ先生に絵を見せて、説明しながら宿題を提出していた。 みんなパイロットや教師、政治家や看護婦など思い思いの絵を描いていた。 私の番がきた。 先生は 「ZIKちゃんは歌手か小説家になりたかったのよね?」 「うん」 「じゃあ絵を見せてください」 私は絵を見せた。 次の瞬間、先生の表情が 「?」という顔になった。夢は歌手か小説家。 しかし描かれていたのは、体操の選手…
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