◆将来の夢◆

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「ん?ん?ちょっと待って?ん?」 先生はうろたえていた。 当然である。 気を取り直した先生は、ゆっくり聞いた。 「なぜ、これを描いたの?」 「キレイだったから」 「そう…」 先生は少し悩んだ。 しかしまた私に聞いた。 「これ、ZIKちゃんなりたいの?」 「なれたらいいかも」 …ごまかしではない。何故かふとそう思って、素直に答えただけである。 それを聞いた先生はニコニコと笑い、 「そうねえ、ZIKちゃんは体が軟らかいし…体育のマット運動は上手だしねえ。体操の選手もいいかもねえ」 先生に誉められて、嬉しくてたまらなかった。 実はこの宿題には、ある『特典』があった。 みんなの将来の夢に先生があれこれとネーミングをくれる、というものだった。つまり、花屋になりたい子の絵には 『フラワー〇〇』(〇〇には生徒の名前)といった具合である。 果たして私の絵は、その意外な夢がウケたのか、先生に 「体操のZIKチロワ選手」とありがたいんだか、ありがたくないんだか、そんな名前を貰い、花びらつきの5重丸を貰い、『ステキな夢で賞』の赤いリボンをつけられ、みんなの絵と一緒に後ろの壁に貼られることとなった。 家に帰った私は、母に話した。 「ただいまお母さん。夢の絵でね、賞をもらったよ」母は喜んだ。 何せ絵のヘタな、下手にくそがつく程ヘタな娘である。その娘があれほど苦しんで描いた絵が、小さいながらも賞をもらったとなれば、嬉しいのは当然だ。 母は、 「今日は、あんたの好きなハンバーグにしようね」とハンバーグを作ってくれた。 そしてその夜は、ささやかに家族全員、お祝いムードな食卓になった。 …しかし、重大なミスがあった。 母も私も、この絵がどんな絵であるかという、肝心要の部分の話をしていなかったことである。 翌週には授業参観を控えていた。 しかも図工の授業だった。版画をやる予定だったのだが、図工だから夢の絵も当然ネタになるのだ。 母はニコニコしながら 「授業参観行くからね。あんたが描いた歌手か小説家の絵、楽しみにしとるよ」と、その日を心待ちにしていた。 そしてこの母の言葉を聞いた私は、この時初めて何かが違うことに気付き、子供ながらに少し不安を覚えたのだ。
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