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「な、なによ、コレ……」
『クリアスコープ』により開けた景色は、トラウマになりそうであった。
例えるならば、それは『タコ』。巨体に幾つあるとも知れない触手が、ペルムを絡め捕らえていた。
それは、ペルムを締め付ける力を強くした。
「う……、ああぁぁ……!」
その呻き声は、今にも潰れそうな様子を容易に想像させた。
「ペルム!!」
ようやく我を取り戻したゼルカが、ペルムを助けようと、前に出る。
「今、助ける!煌めけ、炎弾よ!『ブレイズ』」
ゼルカの指先に力が集中し、それは小さな炎弾となって、『タコ』に向かって行く。
初級魔術の『ブレイズ』と呼ばれる、魔力の発現であった。
だが、
『ぴぎゃああぁぁ!!』
『タコ』は絶叫し、炎弾を触手の一つで難なく弾く。
「くっ!」
ゼルカは止まらない。
「あああぁぁぁ!!」
続けて炎弾を放つ、放つ、放つ。
『ぎゃごおおぉぉ!!』
しかし、やはりその炎弾は虚しく弾かれるだけだった。
『きゃあああぁぁ!!』
『タコ』の触手がゼルカに迫っていることに、魔術を行使することに集中していた彼女は、気付かなかった。
気付いた時にはもう遅く、躱せない距離にその触手はあった。
(しまった……!)
恐怖のあまり、目を瞑る、
「はああぁぁ!!」
が、その必要はなかった。
エマが剣を抜き放ち、『タコ』の触手を切り落としていた。
「悪い、遅くなった!」
一言謝った彼は、剣を強く握り締め、ペルムの救出に向かう。
「エマ君!触手が!!」
ゼルカの叫びに、 しかし、彼は動揺せず、
「『ブレイズ』!!」
詠唱なしに、魔術を放った。
「詠唱もなしに……!」
ゼルカとファリミトルは驚愕した。
本来、魔術を行使する為には、詠唱が必要なのである。それは、大きな魔術であればあるほど、必然的に長くなるものであるが、対して初級魔術は詠唱が短いとはいえ、それをせずに行使するなど、不可能である。
だが、エマはやってのけた。
「まさか……『先々の詠唱』!?」
「『先々の詠唱』?」
それを知らないゼルカは(こんな状況ではあるが)、ファリミトルの説明を訊いてみることにした。
「ええ……、読んで字のごとく、あらかじめ詠唱をしておいて溜め込み、それを発動する。武器と同じようなものよ」
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