地下道に潜むモノ

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「武器と同じ、ですか?」 「そう。詠唱なくして、魔術は行使出来ない。でも武器ならば、詠唱なんかいらないでしょう?」 「なるほど……」 唾を飲み込む。改めてエマの凄さを知った為である。 その彼の放つ『ブレイズ』は、ゼルカのそれと違う。威力が、である。彼女の『ブレイズ』は、易々と弾かれてしまったが、彼のそれはどうだ、一撃で触手を吹き飛ばしている。 (私だって……、あっ!) 負けん気をその胸にたぎらせたゼルカは、なにかを視界の端に認めた。彼女の目線を追うと、彼が、 「ペルム!」 エマがペルムを絡め捕らえていた触手を切り落とし、彼女をその身に抱えていた。 「うおおおぉぉぉ!!『ブレイズ・デンジャー』!!」 エマの叫びと共に放たれた『ブレイズ』が『タコ』に着弾すると、それは激しい爆発を起こした。 『ぎゃごおおぉぉぉ!!』 『タコ』のそれは、間違いなく悲鳴であった。 炎上する『タコ』。 それを不愉快気に見つめるエマ。 ペルムを心配そうに見つめるゼルカ(どうやら気絶しているらしい)。 そして、エマを尊敬のまなざしで見つめるファリミトル。 闇に目立つ炎が、彼らの影を形作っていた。 「ご苦労だった。今日はゆっくり休みなさい」 「はい。それでは失礼します」 職員室の戸を静かに閉め、エマは深い溜め息を吐く。 『タコ』を駆除した、あのあと、急いで地下道から脱出し、まずペルムを病院に運んだ。エマが診たところ、肋骨及び腕が骨折していた。 校長のアンフィニに今回のことを報告せねばならない為、ひとまずペルムのことは、ゼルカとファリミトルに任せ、エマはシルフィーに戻ったわけだが、 (考えが甘かった……。彼女らなら大丈夫だろうと、高を括っていた……。でなくとも、僕が守れば大丈夫だと、調子に乗っていた……) 彼は、自虐的だった。 「何様だよ、僕は……!」 と、視界の端にある人物が映った。 「ゼルカ……」 「エマ君」 「あ……、ペルム、どうだった?」 「エマ君の思ったとおり、肋骨及び腕の骨折。全治四ヶ月ですって」 ペルムの状態を訊き、さらに辛そうな表情をする。 自分が守るはずだった存在。それを守れなかった。自虐的になるのも頷けるほど、彼は責任感が強かった。
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