プロローグ

3/5
314人が本棚に入れています
本棚に追加
/137ページ
容姿では、全く区別がつかない。双子ゆえに、ではあるが、二人とも茶髪で、くせっ毛のある髪だ。瞳はぱっちりとしており、可愛いと言える。 と、そこに、 『エマ・ナック君、至急職員室まで来てください』 という放送が入った。 「あ!きちゃった!」 ペルムが残念そうな顔をする。 「エマ君、気をつけてね……」 ゼルカは、とても心配そうな顔でエマを見つめていた。 「大丈夫、すぐ帰るよ」 エマは、黒髪を翻し、職員室に向かった。 「失礼します」 「どうぞ」 職員室の前に立ったエマは、まず入室の許可をとった。戸を開けると、数人の職員、そして随分と歳のいった男性、学園長のアンフィニ・ジュールが待ち構えていた。 「エマ君」 アンフィニが口を開く。いかにも老人(当然だが)らしい声に、緊張感が高まる。 「『依頼』、ですね?」 エマは、全てを承知している面持ちだった。 実は、これこそが『周知の秘密』なのである。 『シルフィー』は、『ガシャナク城』の城下町に位置しており、表向きは学園だが、その実態は、国の為に働くことのできる者を選出する場なのである。 何かが起こった時には、町人の命を最優先に救助するよう、歴代の学園長に伝えられてきた。また、町人の相談には、できる限りの対応をすること、これが『依頼』である。 『依頼』は、普段なら教師の仕事なのだが、手の回らない時、選出された生徒がそれをこなす。 「うむ。最近、地下道から妙な唸り声が聞こえてくるそうだ。君に調査をしてもらいたい」 エマには、断る理由などない。 「はい。では、今すぐ行ってきます」 現役の生徒で『依頼』をこなせる者は、エマを含め極少数であり、その役目はよく回ってくるのだ。彼はその為だけに通学していると言っても過言ではない。 「待ちなさい」 アンフィニの言葉に、エマは立ち止まり、振り向くと、 「今回は一人では辛そうだ。誰か同行させたいと思うのだが」 大変助かることを言ってくれた。 確かに(いつものことだが)、一人で『依頼』をこなすのは辛いことだ。出来ることならば、猫の手も借りたい心境なのである。 「そうだな、そこにいる三人を同行させるか」 アンフィニが、手を軽く振った。 「わあっ!」 「……!」 「きゃ!」
/137ページ

最初のコメントを投稿しよう!