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入れ代わり立ち代わり、色褪せたライトグリーンの鉄の玄関に耳を当てるも、父がいると言う部屋からは何も聞こえず、そのうちトウマが居なくなり、ナツも諦めたように部屋へ戻ると踵を返した。
「あ、ユースケ。一応言っとくけど、アイツの前でちょっとでも喜んだ仕種したら殺すかんね」
「よ、喜ばないよ……」
「どうだか、あんた一番アイツの最低な所知らないから」
それだけ言ってナツは真ん中の部屋の玄関に消えて行く。
あっと言う間に廊下には僕一人になってしまった。
最低。
子供を捨てた親。
僕らの父親、母親は子供達にもっぱらそんな風に言われていた。
上の兄妹たちの怒りは得に酷く、僕ら下の兄妹達に良く絶対に許すなと強く言い付けていた。
許す訳ではない。
ただ気になるだけ。
僕ら兄妹のアパートの部屋割は、
階段から1番遠い角部屋にアキラ家族。
真ん中が女兄妹で、階段側が男兄弟になっていた。
つまり女共はともかく、男である僕はベランダからアキラ家族の部屋をのぞき見する事が出来なかった。
何度玄関に耳を当てるも聞こえない。
忘れかけた父の声。
許す訳ではない。
ただ聞いてみたいだけ。
見ておきたいだけ。
霞がかった僕の血の繋がったお父さん……。
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