70人が本棚に入れています
本棚に追加
『柳、あの曲弾いて』
『あれ好きだねぇ』
放課後は音楽室で一服が日課となった。
煙草を取り出す度に柳に『めっ』と言われる。
扱いがまるでガキじゃねぇか…?
柳とこうして過ごすうちに
色々わかったことがあった。
柳は一人っ子で母親が大好きな事。
家にはピアノがないから音楽室しか弾ける場所がない事。
『お前ピアノどうやって習ったの?』
『前近所にピアノを弾くお姉さんが住んでて、いつも聴いてたらやってみる?って言われてね』
教えてもらえることになった時はすごく嬉しかったと
柳は楽譜を触りながら微笑んだ。
ピアノには相変わらずぐちゃぐちゃの楽譜を立て掛けている。
『これはお姉さんが作った曲だから
世界に一つしかないの。私の一番お気に入りの曲。北河君がいつも聴きたがるのもこれなんだよ?』
素敵な曲でしょうと嬉しそうに言う柳。
『良い曲だな』
誉めると柳はくすぐったそうにして
またピアノを弾き始めた。
本当にピアノが好きなんだろう。
気持ち良さそうに弾く柳が
俺には少し眩しかった。
最初のコメントを投稿しよう!