凸凹

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柳は答えるのに躊躇したが 俺に逆らうことは出来なかったらしい。 目の前に立て掛けた楽譜を指差した。 促されて見てみると   『無惨だな…』 楽譜は豪快に破られていて、それをテープでやっとこさ繋ぎ留めてある状態だった。 頑張って修復したようだが 実際ぐしゃぐしゃでろくによめない。 思わず顔をしかめる俺を見て 『最近は何もなかったんだけどなぁ』 お嬢様ぶるなよだってさ。 柳は困ったように笑った。 『私ならいいの。いじめ慣れてるから。 でも一番好きなものを否定された。こんな風にぐちゃぐちゃに。』 テープで留めた跡を指でなぞる。 動く指を無意識に視線で辿った。   『悔しい。』 楽譜を見つめたまま 柳は強い眼差しで言った。   『お前も怒るんだな』 特に考えもせず言ったが、少し失礼だったかもしれないと首をすくめた。 本人はそれを知ってか知らずか  『そうよ?』 落ちてきた夕陽の中で いたずらっぽく笑った。 元気になったようだ。 コイツはなんだか 支えてやりたくなるタイプだと思った。 本人は意外と頑固で勇ましいが。   他の女が嫉妬をするのも 解らなくない気がした。 いじめ行為はいただけないにしても。
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