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† † †
視られている――
この感覚を僕は知っている…
気配は感じない。
けれど絡み付くような視線は感じる。
母?父?それとも兄?
クラスメイト?教師?
解らない…
確かなことは僕の知る人物だという事。
死期が近いことを無意識のうちに能が悟る。
――また見つかってしまった――
カインが見逃す訳がない。逃げても逃げても蛇のような執念で追われる。
逃げても逃げても…
解放は望めない。
「亜里、ちょっとおつかいお願いできるかしら?」
街頭に照らされた薄暗い道を一人で歩く。
静まり返った住宅街で僕の足音だけが響いている。
絡み付くような視線は未だに在る。何処からか僕を監視している。
見えざる捕食者に怯える心を奮起して足早に歩いた。
「アサ」
振り返ればスーツ姿の兄が立っていた。
駆け寄る僕を抱き止め頭を撫でてくれる。
その感触に酷く安心して、僕は兄の胸で小さくため息を吐いた。
「大丈夫だよ?僕がいるから…怖くないよ…二人なら…」
違和感。
あの視線がまた強くなった気がした。
「…僕がずっと一緒にいてあげる…永遠にね」
――ああ…
また捕まってしまった――
ゆっくり、ゆっくりと頸動脈が圧迫される。
息苦しい…全身が酸素を求めている。
僅かな呼吸すら許さないかのように唇と鼻を塞がれ、意識が朦朧としていく。
「還ろう…少し待ってて…僕もすぐに逝くから…」
混濁した意識の中で、満足そうに笑う兄の姿が見えた――
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