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目の前に立つ親友の右手に握られたナイフ。
それから滴る僕の血の薫りが鼻腔を掠め、慢性的な貧血の躯が震えた。
手首を抑え出血を止めれば親友は口元を半月に歪めて笑った。
「生に執着するの…?それは掟違反だよ…?」
神の御言葉が脳で反復する。
“執着を赦さず――総てを許容せよ”
其れならばカインの僕に対する執着は掟破りではないのだろうか?
生きているのに…
確かに存在しているのに…
生に執着する事は重罪なんだろうか?
僕は――生きたい。
この世界にいたい。
人として…
生きていたい。
不毛なメビウスの輪をここで断ち切れるならば、
罪を重ねることになろうと僕は掟に背こう。
親友の姿をした兄が一歩一歩距離を縮める。
スローモーションを見ているような不思議な感覚。
「…アベル…」
きつく抱き締められた。
腹部に突き刺さる鈍痛に耐えナイフを引き抜き、笑う親友の心の臓に突き立てた――
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