RoundⅢ

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目の前に立つ親友の右手に握られたナイフ。 それから滴る僕の血の薫りが鼻腔を掠め、慢性的な貧血の躯が震えた。 手首を抑え出血を止めれば親友は口元を半月に歪めて笑った。 「生に執着するの…?それは掟違反だよ…?」 神の御言葉が脳で反復する。 “執着を赦さず――総てを許容せよ” 其れならばカインの僕に対する執着は掟破りではないのだろうか? 生きているのに… 確かに存在しているのに… 生に執着する事は重罪なんだろうか? 僕は――生きたい。 この世界にいたい。 人として… 生きていたい。 不毛なメビウスの輪をここで断ち切れるならば、 罪を重ねることになろうと僕は掟に背こう。 親友の姿をした兄が一歩一歩距離を縮める。 スローモーションを見ているような不思議な感覚。 「…アベル…」 きつく抱き締められた。 腹部に突き刺さる鈍痛に耐えナイフを引き抜き、笑う親友の心の臓に突き立てた――  
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