RoundⅢ

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手が真っ赤に染まった。 初めて人を傷つけた。 口から血を吹き出しながら驚き赤眼を見開くカインをただ茫然と見つめ続けた。 「アベル……?何故…?」 “弟より先に逝ってはならない” もし僕が生き残ったら? 何が起こるのだろう? 其れが当然のように殺されてきた。 自分を手にかける兄を見届けてきた。 ねぇカイン。 だから今度は僕が見届けてあげる… 君の最期を…君の命が散る瞬間を――… 「…アベル…君は…何処にいこうというの…?」 解らない――ただ試したいだけなのかもしれない。 僕らの定めを狂わすことが出来るかどうか…兄から逃れられることが出来るかどうか―― それとも兄の散りゆく様を見たかっただけかもしれない。 「――愛してる…アベル…君には僕が…必要なんだよ…?僕らは…ひとつで……」 力無く倒れこむカインの瞳から光が失われる。 その鈍い赤眼に責め立てられているようで、そっと瞼を閉ざしコインを乗せた。 腹部の痛みが酷くなり吐血しながらも兄の亡骸を抱きしめた。 兄は何度もこの虚無感を味わってきたのだろうか。 僕には――耐えられそうもない… 自由を望んでいた。 兄から…定めからの解放を望んでいた。 繰り返す輪廻を断ち切りたかった。 転生などせず安息の場所が欲しかった。 「今から逝くよ…」 そして僕は自ら籠に入る。 翼を取り戻す為に… 不毛なメビウスの輪を組み立てる為に…  
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