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吐精された白が僕の肚と顔を穢す。
――これでいい――これで満たされる――
僕の髪を掻き乱す兄の烙印の上に牙を突き立てた。
百年振りの血の薫りに夢中でしゃぶりつく。
咽を滑り落ちる鉄の味に酔いながら、次の転生が近いことを悟った――
† † †
赤いベッドで眠る兄を見つめ烙印に触れた。
穿った痕はもう消えている。
僕の烙印に穿たれた筈の痕ももう綺麗に消えている。
僕らの罪の証だ。
この烙印が在る限り僕らは運命から逃れられない。
白く細い首に手をかけた。瓜二つの寝顔を見つめそっと力を入れれば兄の顔が苦痛に歪む。
ねぇカイン。
僕らはいつか安息を得ることが出来るのだろうか?
僕はこの躯も命も朽ちてしまってもいいと思う。
永劫の命など要らない。
繰り返す輪廻にもう疲れてしまったんだ。
「…無駄だよ…解ってるでしょ…?」
ゆっくりと瞼を持ち上げた赤眼が僕を射抜く。
かけた手に手を重ねて力を込め、苦悶に顔を歪めながらも兄は嗤った。
もう、いい…
もう十分だ――
噎せる事もなく僕を抱きしめゆっくりと背を撫でる。
解放を望んでいる筈なのに…僕はこの兄から離れることは出来ない。
「…苦しいの…?アベル…またいってしまうんだね…」
苦しい?
そんな感情は遠い昔に棄ててしまった筈。
解らない…僕は苦しいの?
再び始まる別離を悼む兄の温もりを感じながら、
静かに瞼を下ろした――
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