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十余年が経った。
未だに兄は現れていない。
今度こそ逃げ切ってみせる。
今度こそ運命に打ち勝ちたい。
強くそう願いながら、僕は“家族”との団欒を過ごしていた。
僕は兄とは違い隠れることしか出来ない。
“アベル”の記憶・魂を隠し転生した人生を生きることしか――
双子なのに何故兄に出来る事が僕には出来ないのだろうか?
それすらも罰なのだろうか?
「亜里(アサト)、お風呂入っちゃいなさい」
優しい今の母。
立ち上がる僕の腕が引かれた。
「アサ、一緒に入ろう?」
優しく笑う三歳年上の兄。
そんな僕らを微笑みながら見つめる父母。
倖せ――ふとそう感じた。
愛されている事がわかる。宝物のように扱われていることが伝わる。
《ずっとこの家族と居たい…》
心の中でそう呟いた…
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