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男は、部屋の中央に倒れ付していた。
ずらりと蝋燭の並んだ異様な雰囲気漂う室内に、人の気配はない。ただ、部屋の中央に、1人の男が倒れているだけである。
固く閉ざされた瞼は震える兆しを見せず、力なく投げ出された手足も、動く様子はない。その面は、まだ20代後半と見える。
よくよく見れば、仕立てのよいスーツから覗く手首には、火傷の痕のような、醜い痣がある。鎖の形のようにも見え、それが彼の左手首を一周している。
動くものが何もない部屋の扉が押し開かれたのは、この男が倒れてから、どれほど後のことだったのだろうか。
歳は50代半ばと見える男が、重々しく床を踏みしめて、床に倒れる男に歩み寄る。
彼は傍らに膝をつくと、床の男の口元に手をかざした。
「……まだ、息があるのか」
男は呟き、そっと懐から小塚のような刀を取り出した。
「せめて……、儂が全てを終わらせてやろう」
男は大地を這うような重低音で言った。
「これも、情けというものじゃ。感謝するのだな───朔磨{さくま}」
この日、1人の男が、その生涯を終えた。
その名を、神永朔磨{かみなが さくま}。
代々、武術を継ぐ名門の一人息子。
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