気付いたときは、見知らぬ土地で

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「っ!?」 突如現れたことに対しての驚きと、炎の熱気で零は反射的に後ろに跳んだ。 肌寒かった周囲の温度を上げていく炎の傍らでツキは腕を組んで、満足げな笑みを浮かべて黒いコートをはためかせる。 炎はうねり、渦を巻き、最後に爆発的に広がり突如として消えた。 「この子でどうだ! 向こう側にはいないでしょ!」 ツキが手を向けているのは、炎の中から現れた大きなトカゲ。 その、人を五人程乗せても余裕のある背中と尻尾の途中からは紅い炎を纏っているその姿はトカゲというより、竜といったほうがしっくりとくる。 その姿を見て零は目を丸くしてツキに尋(たず)ねる。 「なに? コイツ」 「サラマンダー」 そう答えられ、零はしげしげとそのトカゲ、サラマンダーを見る。 「・・・どうやって背中と尻尾から炎出してんだ?」 「そっちかーい」 零がサラマンダーに抱(いだ)いた感想は驚きや畏れではなく、純粋な疑問だった。 「普通怖がったり驚いたりすると思うんだけど」 なにか珍しいものを見る目でツキが聞くと零はいろんな角度からサラマンダーを観察しながら口を開いた。 「それなら俺が普通じゃないってことだ」 「それ普通否定したいとこじゃない?」 「普通じゃないんだろ?」 「うーん・・・?」 ツキは小難しい顔で唸り、直後にのほほんとした表情になった。 「ま、いっか。ところで」 ツキは小さく笑ってサラマンダーに手を置く。 「信じてくれた?」
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