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不意に意識が浮上して目を開ける。
目に入ってきたのは澄み渡る夜空に煌(きら)めく数多の星たち。
それをぼんやりと眺めながら心の感情に戸惑う。
寂しさと、懐かしさとが混ざり合ったような不思議な感情。
懐かしむような思い出を持たない銀時 零(ぎんとき れい)にはその感情に戸惑うことしか出来ない。
「・・・夢?」
なにかそれらしいものを見た気がするが、なにも思い出せないため忘れることにする。
ゆっくりと寝ていた体を起こすと体に掛かっていた布が地面に落ちた。
それを横目に見ながら辺りを見渡す。
目に入ってくるのは岩、砂、時折思い出したように生えている謎の植物、パチパチと音を鳴らしながら辺りを照らす焚き火、そして、
「・・・虫?」
零の横で零を見上げている黄色い芋虫のような生き物。
頑丈そうな甲殻に覆われた体に鋭い剣状の尾。
その反端にある一対のつぶらな瞳。
その芋虫もどきを見て零が最初に思ったのは、疑問だった。
この生き物はなんだ? という至極当然の疑問。
その疑問を解決すべく芋虫もどきに手を伸ばす。
すると芋虫もどきは頭部を地面に押し付け、土砂を撒き散らしながらすごい勢いで土の下に潜った。
零の額からつぅ、っと汗が流れ落ちる。
「・・・なんだ? コイツ」
芋虫もどきは少し離れた所にひょっこりと頭を出して零を見る。
「・・・とりあえず落ち着いて今の状況を考えてみようか、俺」
頭を押さえて零が呟く。
「・・・」
・・・ダメだ。
当たり前だが理解できない。
地元の自然公園に出掛けたはずなのに気づくと知らない場所で寝ていた。
これが今の零にできる精一杯の現状把握だった。
「・・・誰かに連れてこられたとか?」
・・・クロロホルムとかの薬物で。
なぜ、こんな所で芋虫もどきと寝かされていたかはともかく、それが一番可能性が高いような気がした。
辺りをもう一度見渡すが、人影は見つからない。
「捨てられた?」
それなら焚き火をつけて布を掛けない。
「あ、起きた?」
零がブツブツと呟いていると上から声が聞こえた。
見上げるとそこには奇怪な格好をした少年が岩場に腰掛けていた。
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