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「なにか聞きたいことがあったら遠慮なくどぞ」
朗らかにそういうツキを見て零は手を口元に持って行き、そっぽを向く。
「・・・親切? いや、なにか下心でもあるのか」
「ないない。それにそれ、本人には聞かれちゃダメじゃないかな?」
手を振ってそういうツキに零は向き直る。
「じゃあ、聞きたいことがあんだけど、聞いてもいいか?」
「無視かーい」
「で、答えてくれるのかくれないのか」
「・・・なんかものすごーく納得できないけど、ツキに答えられることなら」
不満そうに促すツキの言葉に零がまさかと反応する。
「・・・ツキ?」
・・・この年で自分のことを名前で呼ぶなんてあるわけ・・・、
「長いこと自分の名前として定着させようと自分のことをそう呼んでたら直らなくなって」
・・・ありやがりましたよ根治苦笑。
おそらく恥ずかしそうにハミカミながら少年、ツキは言った。
目が隠れていて表情がわかりにくい。
「他にも影落とす者、とかライヤーとかで呼ばれてたりするけどね」
「本名は?」
若干後方に下がりながら零が聞く。
「・・・わかんない」
そう答えるツキの表情は一瞬だけ、寂しそうになる。
「忘れちゃった」
しかし、すぐに笑顔になったため、その変化に気づけなかった零は呆れたようにツキを見る。
「忘れたって、お前なぁ」
「あはは、いいのいいの。
ツキ、これが名前だよ」
零は短くため息をつく。
「まあ、事情なんて人それぞれだしな」
「そうそう。誰しも探られたくないことの一つや二つあるってこと」
「・・・」
零がジトッと睨むとそれがわかったのかツキはあはは、と逃げて仕切り直した。
「それで、聞きたいことって?」
「ん? ああ、ここどこ? 見たことない場所なんだけど」
「・・・ぷっ」
ツキは零のことをマジマジと見て、やがて小さく吹き出した。
零の額に青筋が浮かぶ。
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