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少女は鋼の目の前まで止まる。
次の瞬間、薄く見えていたビジョンは消え去り、鋼の視界には自分を見つめる少女の姿が鮮明に映し出された。
「うっ……」
二つの視界を同時に見ていたからか、鋼は急な目眩に襲われた。
どうにか持ち直すと、目の前にいた少女は遠くへと走っていた。
「ちょ、ちょっと待って!」
彼女から今のビジョンのことを聞こうと鋼は後を追いかける。すると、少女は途中途中でこちらの様子を窺うように立ち止まり、また走っていく。
(俺を誘導してるのか……?)
とにかく追いかけるしかないと思い、鋼は追跡を続けた。
* * *
「ここは……」
白い服の少女を追いかけ辿り着いたのは、先のビジョンで見た廃工場だった。
少女は工場の中へと入っていく。
「そっちにいっちゃ危ない!」
ビジョンの中の蠢いたものが脳裏をよぎる。
鋼には、本能的にあれが危ないものであることを悟っていた。
少女を追いかけ工場の中に入ると、中には異臭が漂っていた。錆び付いた金属の臭いや工場独特の排気臭。
その中に工場とは違う何かの臭いが混じっている。
恐る恐る中へと入る。少女の姿は見えない。
その時、足元から水たまりを踏んだような音がした。
「っ!?」
その水たまりは赤い色をしていた。
よく見ると、それは奥の方からつたってきている。
鋼はその先を目で追っていった。
「な……」
そこには、巨大な何かがいた。
植物の根を思わせる蔦の集合体の上に、大きなつぼみのようなものがある。その両側からはさらに蔦が伸び、先には小さな花のようなものが付いている。
その全長は、近くにあるコンテナ三つ分は優に越えている。
「なんだ……こいつ……」
巨大な花のような姿をした怪物を前に、鋼は硬直していた。
声に反応したのか、巨大生物が動き、鋼の方を向く。
「!?」
そのつぼみの先には、人の上半身がいくつも垂れ下がっていた。
刹那、つぼみの両側についている蔦の花が鋼目がけて突進してきた。
「くっ!?」
鋼は後ろにステップを踏み間一髪でそれを避けた。そして近くの鉄柱の影へと身を隠した。
(なんなんだ、あいつ!? 人間を食ってるのか!?)
鉄柱から顔を覗かせ、もう一度つぼみの部分を確認する。そこには確かに死体がいくつも垂れ下がっている。
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