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その日、鋼とひかるは不思議なものを見た。
「わぁ、雪だぁ」
八月の中旬。茜色に染まった空から降る、季節外れの雪。
辺りには雲があるわけでもなく、まるで天気雨のように白い光の粒は快晴の空から落ちてきていた。
「でもおにいちゃん。ゆきってふゆにふるものじゃないの?」
「うーん……きっと夏にふりたくなったんだよ!」
「そっかー!」
鋼とひかるは、しばらくその光景を肩を寄せ合い見入るように眺めていた。
「きれいだね、おにいちゃん……」
「うん……」
幻想的な光景を前に、幼い少年少女は素直にきれいだと思い、思い出の一ページに刻み込んだ。
* * *
「なぁ鋼。早くやってくれよ」
「まぁそう慌てるなって」
放課後を迎えた学校。生徒が帰り終えた教室の一つに、数人の生徒達が集まっていた。
まるで密談でもするかのように一つの机の周りに固まり、卓上を見つめている。
その視線の先には一本のスプーンがあった。
「全員、このスプーンが何の変哲もないスプーンだということは確認しましたね?」
机を挟んで集まっている生徒達の反対側に立つ少年――――大乃 鋼が全員に呼び掛ける。その声に、生徒達は首を縦に振った。
「では……」
鋼は一度大きく息を吸い、スプーンに手をかざし目を閉じ意識を集中する。
自身の深い場所へと潜り込むような感覚。そしてその水底に沈んだある物を引き上げてくるかのように、鋼はゆっくりと目を開けた。
生徒達は少しの変化すらも見逃すまいとスプーンを固唾を飲む。
数秒の間を置き、スプーンがカタカタと小刻みに震えだした。そして――――
「いきます」
鋼の言葉に続くように、スプーンは真ん中からいとも簡単に折れ曲がってしまった。
瞬間、生徒達はどよめき始める。
手に持ってのスプーン曲げならばテレビでも既に使い古されたネタだ。しかし、鋼が見せたのは見たことも無いような技だ。
「まだ終わりじゃありませんよ?」
鋼はその様子を楽しそうに観察しながら、更にもう一つ技を見せる。
今度は折れ曲がり重なった部分の中央から曲がり始め、最後には四つ折りになってしまった。
「すごーい!」
「ねぇねぇ、何でこんなことできるの?」
「これ、本当にマジックなのか!?」
ショーが終わったことを知ると、どよめきは歓声になり生徒達は鋼に真相を確かめようと言い寄ってくる。
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