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「っあッ、――つめたっ!」
ばしゃり、と派手な音を立てて水しぶきが舞う。一気に現実に引き戻された桂夏[けいか]は、目を見開いて愕然とした。
―――暗い。
「…え?」
辺り一面、真っ暗なのだ。闇。
何も見えない。
僅かにわかるのは、月明かりを反射した、流れのままに動く水面の揺れだけ。
――月明かり?
見上げると、空には少しだけ上に欠けた月。
息を飲む。
いつの間に外に出た?
さっきまで自宅のお風呂に入っていたはずなのに。
なのに冷たい。なんで。どうして。
恐る恐る、闇に包まれて見えないとわかっていながら、辺りを見回す。
暗くて、何も見えない。けれど耳に響く虫のなく声。自分の腰の辺りを流れていく水の感触。
…見えないけれどわかる。
ここは、足を伸ばすのもやっとな、そんな狭い空間ではない。
外。
桂夏は最後に自分を見下ろした。全身びしょぬれで、浴槽でくつろいでいたままの、すっぱだか。
そしてようやく、桂夏は川の中に座り込んでいる自分を見付けた。
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