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「待て、コウガ。あんまり先に行くな」
暗くて足元もおぼつかない薮のなかを、慣れた足取りで登る足音が一つと一匹。
先を行くコウガは久々の遠出が嬉しいらしく、さっきから何度もしっぽだけ残しては薮の中に突っ込んでいく。
その後を追う劉青[りゅうしょう]は、やれやれと息をつきながら薮をかきわけ、森の中に入って行く。コウガの張り切りようとは裏腹に、今夜はまだ一匹の獲物も捕えてはいない。
ずり落ちてきた猟銃を肩にかけなおし、劉青は空を見上げて立ち止まった。
さっきまでは曇一つない月夜だったのに、今は所々で分厚い曇が星ぼしを隠し始めていた。
一雨くるかな、と思う。
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