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先輩が、一歩ずつ近付いてくる。
私は地面に足を貼り付けたまま動けずにいた。
「お前に、借りを作るのは悪かねぇだろ? 今俺が望んでんのは……山城。お前を、手に入れることだ」
その意味不明な言葉は、私の思考回路を停止させるには十分過ぎるもので。
私はただ訳が分からず唖然とするばかりだった。
「どー、ゆう」
「そのままだって。わかるだろ、山城。お前が欲しいんだよ」
こんな、痒くなるような台詞を平然と言い放つ眼前の先輩は何者なんだ、ホストか?
「ま、無理矢理は俺は好かねぇからやらねぇよ。安心しろ。ただな」
ニヤリ、と。
それは悪い笑みを浮かべる先輩。
私はざり、と漸く足を半歩引いて後ずさる。
「俺様は、多少強引だぜ」
「へ、あ」
一瞬の感覚にはチュッという恥ずかしい音が伴って、私は唖然としつつ全身が沸騰したみたいになっていくのを感じた。
い、今……!
「んじゃ、俺様は帰るぜ。忘れんなよ、やさしーセンパイへの恩」
私は額を押さえながら、遠ざかる広い背中に怒鳴った。
「センパイのスカタン!!」
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