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「もういい時間だ。女が一人で出歩くと襲われるぜ」
「うあっ」
腹に手が回ってきて、背中いっぱいに人の体温を感じる、トクントクンと刻む鼓動も伝わってくる。
え、今どうなってるの? 何が起こったのがわからずただ固まっていた。思考が働かない。周りの景色が、色褪せて見える。
そんな半ば放心状態になった私の耳を、先輩の息が擽った。
こっこそばゆい!
「こんな風にさ」
「ひいっ!」
先輩がそう言った瞬間、ぞくぞくぞくっ、と変な感じが背筋を駆け巡る。
こ、鼓膜変になるっ!
そんな私を先輩は耳元でくつくつ笑って漸く手を放す。耳を押さえて先輩を睨む私に、先輩はぽふんと頭に手を乗せて「わかったら行くぞ」と言って私の手首を掴んだ。
「わかっわかりました! わかりましたから放してくださいぃ!」
身が持たない!
「今の誰かに見られませんでしたよね!?」
「多分」
「多分!? 多分は困ります誤解されちゃうじゃないですか!」
「別にいいだろ」
「良くないです!!」
もう本当極力関わりたくない! いつだって火の粉を浴びるのは私なんだっ!
そんなことを思いながら、先輩と並んで歩いた帰り道。
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