だから、言ったじゃないですか。

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ぐすぐすと泣き始めた私を、美人さんがぎゅう、と抱き締める。 ウワァいい匂い、なんて場違いで変態くさいことを思いながら「美人さん優しい」と言った。 そしたら、美人がくすり、と笑って。 「美人さんって何よ? 変なの」 「だって、名前知らなくて。凄く美人だなって、思ったから」 そう言ったら、少しの沈黙が降りた。 「……麗」 「れいさん?」 「さん、は可笑しいでしょ? 私達同い年よ」 「麗ちゃん!」 「……ちゃんは、慣れてないからヤダ」 「れ、れい」 は、恥ずかしい! 恥ずかしいな! このやり取り! 照れ隠しにぎゅうぎゅう抱き付いてみたら、れい、は子供をあやすみたいに背中をぽんぽん、と叩いてくれた。 「私はましろ。山城ましろ」 「やを取るとましろが二回続くのね。面白い名前」 くすくす、と凄く綺麗に笑うれいに私はでしょ、と言って笑う。 なんだろう、この感じ。 胸がほわって暖かくなる不思議な感じ。 「今だから言うけどれい、すっごくいい香り。役得役得」 「――っ!」 バッ、と勢い良く離れてしまった。ちぇっ言わなきゃ良かった。 「い、今のはちがうから!」 「え?」 いきなりわたわたとする麗に私は訳も分からず首を傾げる。 麗は顔を赤くしてただあうあうと言葉になりきらない声を繰り返していた。 か、可愛いな!
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