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目の前でゲラゲラ笑う先輩とは対照的に、私は唖然と先輩の手中を眺めていた。
「何で俺様がお前の生徒手帳を持っているのでしょう? って、さっき聞いたんだけどな」
それをお前、とまたもや笑い出す先輩に、私はムッとなって言った。
「私目そんなによくないんであの距離じゃ名前見えません」
「そんなムキになんなって。返して欲しいだろ? これ」
「当たり前じゃないですか。映画見に行けなくなりますもん」
まぁ実際見には行かないけど。
「だろうな。で、だ。返してやるから、言うこと聞け」
「えぇー。たかがそれくらいでですか? 先輩って恩着せがましいんですね」
じとぉっと睨むと、先輩は不敵な笑みを浮かべて生徒手帳をポケットに仕舞った。
「ちょっ何してんですか。返してくださいよ」
慌てて先輩から生徒手帳を取り返そうと身を乗り出しポケットに手を伸ばす。
だけど素早く手首を掴まれて頭の上へと持ち上げられ、先輩はぐん、と顔をすぐ近くまで寄せてきた。
「大胆だねぇ」
その顔は悔しいくらい整っていて、口元は楽しそうに弧を描いていた。
私はただ睨むことしか出来ない、けれど少しでも威嚇してやろうと目の力を弱めることはしなかった。
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