郷愁のミモザ

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冬の夜景は本当に綺麗だ。 地上52階。僕はホテルの最上階にあるBARで独りの空間を満喫していた。 ミモザを二つ注文し、誰も座ることのない、向かいの席に用意する。 あれから二年・・彼女はもういない。 一年前の今日。フライト先の故郷でもあるフランスの地で交通事故に遭い、他界したのだ。 事故とは無情なもので人の予定などお構いなしにその人の今迄の人生とこれからの人生をあっという間に奪い去る。 御両親にも会い、式の日取りも決め、これからという時に彼女は逝った。 その一報を受けてからの数ヶ月間、僕は生きた心地がしなかった。 食事も喉を通らず、人との接触も拒んだくらいで、ここ最近になってやっと彼女のいない世界を理解し始めたところだった。 二年前のあの日、ここで勧めたミモザ、笑窪をくっきりとつくり微笑んでいた彼女、そして・・・ 僕はホールスタッフに声をかけ、女性ヴォーカリストにリクエストをした。 あの日と変わらずいる女性ヴォーカリストはこちらを見て頷き、ウィンクを一つしてから曲目を紹介し、演奏を始めた。 『unforgettable that’s what you are・・・』 都心に悠然とそびえ立つホテルの最上階で、彼女へのレクイエムが流れ始めた・・・・ 完
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