郷愁のミモザ

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「ねぇ」 「うん?」 「私たち、出逢ってからどれくらいになるかしら?」 窓の外を眺めながら彼女が聞いてきた。 「どうだろう。半年は経つかな」 「うまくいくかしら?私たち」 「うまくいっているでしょ。どうしたんだい?急に」 僕は煙草の火を消し、構える様に彼女を見た。 「父に会って欲しいの」 姿勢を正し、僕を見つめながら彼女がそう言った。 何も弊害が無い縁談ではないが、そう在りたいという想いも強く。僕は躊躇することなく、 「問題ないよ、いつでも」 と笑顔で返事をした。 「お待たせ致しました」 そこへ二杯目のミモザが運ばれ、話は中断した。 察したホールスタッフは手早く空いたグラスを下げ、一礼をするとすぐに去っていった。 「本当に?よかったぁ、これでも少し緊張したのよ」 彼女は安堵の表情を浮かべている。 「ああ、本当だよ、これからもよろしくね」 「ええ、こちらこそ。あ、もう一度乾杯しましょう」 「何に乾杯しようか?」 「私たちのこれまでとこれからに、それと・・ミモザに」 彼女は笑窪をつくり笑顔でそう言ってグラスの脚をつまみ、こちらに向けている。 僕も同じようにしてグラスを彼女へ向ける。 そして二人は最良の日に二度目の乾杯をした。 『Think that I am unforgettable too・・・ 』 アンフォゲッタブルの演奏が終わり拍手が鳴り止み曲目が変わる。 僕らはそれに合わせるかのように二人の今迄の話とこれからの話に夢中になり、ミモザをもう一杯ずつ注文し、それからの数時間、二人にとって忘れられない夜を過ごした・・・・      
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