257人が本棚に入れています
本棚に追加
/52ページ
最初はただの気まぐれだった。今はついて来ていても、いつかは自分から離れるだろう。
例えば百年という時は人間にとっては代を重ねる、悠久の流れ。
だが妖怪にとっては子が成人するまでの瞬く間だ。
故に人間と妖怪では時の流れも違うし、寿命の長さにも天と地の差がある。
どんなに私を慕っていても、いつかは引き離してやろうと考えていた。
「殺生丸様~」
だがそのことを知っても、私について来るのだろうか?
「お待ち下さい、殺生丸様。一体どちらへ行かれると言うのです?」
背後から自分を呼ぶ声に足を止め、少女を見下ろした。
「…りん」
「はいっ」
名前を呼ばれて姿勢を正す。
-何が嬉しい?
名前を呼んだだけだ。
そう思いながら、小さな頭に手を置く。
「人のお前と妖怪の私では生きている時も違うし、寿命の長さも違う。
故に、お前は私よりも先に死ぬ」
「…はい」
声が震えていた。
「それを承知の上で、お前は私について来るのだな?」
どう答えるのだろうか。
やはり泣くのか?
「それでもついていきます。それがりんの生き方ですから」
私は間違ったことは言っていない。もしまだりんが人の世に戻り『人間の生活』が送れる可能性があるのなら、今すぐ戻してやる。
それがりんの為だと思っていた。
だがりんは私と共に生きることが生き様だと語っている。
「あの、殺生丸様?」
黙りこむ私を、りんは怪訝そうに見上げ続けていた。
「それがお前の答えなのか」
「はいっ!」
「……。…そうか」
それだけ答えて歩き始める。りんは迷わずついて来た。
「この私について来るのなら、見失わないようにしろ」
りんは笑った。
花のような笑顔で。
最初のコメントを投稿しよう!