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でも確かに、ダイゴの奥さんは、両親のいるフランスを離れてニューヨークで暮らしているけど、テレーゼはニューヨーク生まれのニューヨーク育ち。
夫にしがみつかなくとも、親や友人などに事欠かない。
「妻をよく観察してると、欲しいバッグとかそれとなくサインを出してるよ。ルドも顕微鏡で妻を見ないと。」
ダイゴはルドの肩を叩いて笑った。
うーん。
きっと顕微鏡で見ようとしたら、テレーゼは余計に自分の欲しい物を隠してしまうような気がする。
きっと最初は彼女も、ダイゴの奥さんのように、素直に“私を見て”だったんだろうけど、長年の経過で今は諦めてしまったのだ。
身近に親や子供たちもいるし、それで夫不在の寂しさは埋められる。
その代わりに“私を見て”は、“意地でも見せてやるものか”に変わった。
ただ、“意地でも見せてやるものか”は、“私を見て”の屈折した形で、彼女は実は、顕微鏡どころか、内視鏡やCTスキャンで自分を見て欲しがっているのだ。
なぜ僕がこんなに彼女の気持ちが分かるかと言うと、彼女がこんなに意固地になってしまった原因は、僕にあるからだ。
ルドが、テレーゼよりも僕を愛しているからこうなる。
テレーゼはルドを世界で一番愛しているのに。
「…。」
だからと言って、僕は情け容赦はしない。
だって、彼が自分から僕を見捨てるなら仕方がないけど、僕に向いてくれているものをあえて突き放すほど、僕は人間ができていない。
エゴイストな僕だ。
僕は、ブランドショップの近くの売店で新聞を買い、立ち読みをしているルドの背中にオデコをくっつける。
「…。」
しばらくそのまま、癒しの時間を過ごす。
突然人影がさし、僕はルドの背中から、ルドは新聞から顔を上げた。
影の主、ナネッテ・シュトライヒャーはそんな僕たちを見て、美しい笑顔を輝かせながら言った。
「ホモ。」
ルドは驚いたように、でも嬉しそうに「違うさ。君はどうしてここに?」と言う。
“どうして”って、ルドを見送りに来たに決まってる。
「目の保養に。ここはブランドショップがたくさんあって、優雅な気分になれるでしょう?」
わざわざこんな遠くまで、しかも空港に、誰がブランド物を見に来るんだよ。ミラノに来たなら、デパートとかもっと盛りだくさんなスポットがある。
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