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「あれ、ナネッテじゃない。見送りに来てくれたの?」
買い物袋を提げたダイゴがこちらに向かいながら言った。
「うふふ。そういうわけではないんだけど、そういう事にしておこうかな。」
ナネッテはダイゴと挨拶のキスを交わしながら楽しそうに言う。
「さぁ、そろそろ出発ロビーに行くか。」
ルドはエレベーターを指差す。
もう?あと30分は大丈夫だろ?せっかくナネッテが来てくれたのに、少しくらい話をしても神が許すだろう?
ところがルドは、さっさとエレベーターのボタンを押す。
僕とダイゴ、そしてナネッテはやってきたエレベーターに乗り込み、扉を閉めようとしたら、突然ロビーから「待ってー!」と大きな声がして、東洋人の集団が中にドヤドヤーっと入ってきた。
あわわわわ。
来る来る来る来る、人が来る!
僕はヴァイオリンケースを胸に抱えて、『女王』と弓を人の波から守る。
エレベーターの奧に押しやられ、押し潰されそうになりながら、僕はこの東洋人集団が日本語を話していることに気付き、近くで潰されそうになっているダイゴと目を合わせて苦笑した。
そしてふと目の先で、ルドとナネッテが、抱き合うような形で押し潰されそうになっているのに気付く。
「…。」
エレベーターがスーッと動き出す。
「…。」
身体が密着した状態で、直立不動のルドと、同じく直立不動のナネッテ。
「…。」
一階から三階まで、ノンストップのほんのわずかな時間。
ナネッテが目を閉じて、ルドの鎖骨に頬を寄せた。
「…。」
ちょっと目のやり場に困って、僕はうつむく。
別にすごくイチャついてる訳ではないのに、すごいラブシーンみたいに感じるのが不思議だ。
でも、二人の想いが伝わったような気がして、胸がキュンとなる。
エレベーターが止まり、扉が開くと、また一気に集団が外に飛び出し、僕たちも後れて外に出た。
ルドとナネッテは、また何事もなかったかのように、ダイゴを交えて普通に談笑を始める。
「…。」
ナネッテは本当に見送りに来たんじゃないかもしれない。
ルドが言い出せば、一緒にニューヨークに来るつもりかもしれない。
でもルドは決してそれを言い出さない。
1000%それはないと、僕は言い切れる。
優しい目で彼女を見るルド。
そして、恋する女性特有のオーラを輝かせるナネッテ。
切なさモード、全開だ!
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