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「ねぇ。」
ダイゴが声をかけてきた。
「こんなところで“覗き”みたいな事をしてないで、ジムも綾子さんにお土産でも買ってあげたら。」
あぁ。
「さっきも、せっかくブランドショップに行ったのに、君はルドにくっついてばかりで、店にも入らなかったじゃない。」
「だって…。」
考え事をしていたら、バッグの事なんて吹っ飛んでしまった。
「ほら、行こう。」
ダイゴは僕の肩を叩くけど、イヤだ。他所に行くと、二人が見えなくなる。
僕が気乗りしないのを見て、ダイゴは「なんだ。理解を示しておきながら、結局は自分の目の届く範囲じゃないとイヤなんだ。」と呆れたように言うけど、すみませんね、心の狭い男で。
あれ?ルドがキョロキョロしてる。
「僕たちが戻らないからルドが心配してるよ。」
ダイゴが言ったけど、その通りだ。
ルドが何かを言いながらスーツの上着を脱ぎ、ナネッテに預ける。
薬屋に来るつもりだ。
どうして別れ際の女性を放って、必ず戻ってくる僕たちを探すのか、本当にわけがわからないけれど、とにかく僕は薬も買わずに本屋にいるわけで、これはヤバイと店を飛び出す。
ルドが僕たちを見つけ、「大丈夫か?」と走ってくるその背後で、ナネッテがルドの上着を抱きしめ、遠慮がちに頬を寄せるのが見えた。
「…。」
切ない女心だ。
「薬は買えたのか?」
ルドは僕の頭に手をやるけど、僕はその手を僕の胸に当て直して言った。
「頭は治ったけど、胸が痛い。」
「胸?心臓か?」
ルドは仰天するけれど、丸っきり馬鹿。
僕は彼の言葉を無視して、ナネッテのいる場所に向かって歩き出す。
本当にいいの?
次に再会する事があっても、その時の二人は今の二人ではないんだよ。
今この時に、最高の思い出を作っておくべきなんじゃないか?
ルドはナネッテから上着を受け取ると、それを着込む。
「さぁ、行かないと。」
ルドは僕たちを見渡して言った。そして僕に「頼むから機内で心臓マヒとか起こさないでくれよ。」と言うけれど、君こそ、機内でメソメソと後悔の涙を流さないでくれ。
僕たちはチェックインカウンターに足を向ける。
ここで手荷物チェックを受けたが最後、僕たちは後戻りは許されず、そのまま階下の搭乗ゲートに直行しないといけない。
もちろん、見送り客もこれ以上は踏み込んで来れない。
最後のチャンスだよ、ルド。
キス。そうだ。キスしちゃえ!
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