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でもルドは、ナネッテに指一本触れようとはしない。
それどころか、僕やダイゴがナネッテとお別れのキスを交わしたのに、彼はそれすら無視しようとする。
これは男として、というより、人間としてどうなんだ?というレベルなので、僕はルドの背中をドンッと突き飛ばして強制的にナネッテに向き合わせ、サヨナラのセオリーだけはきちんとさせた。
「それじゃあ。」
「元気でね。」
「体に気を付けて。」
四人で、いや、主にルドを除く三人で口々に別れの言葉を告げ、僕たちはカウンター内に進んでいく。
普段通りに手荷物チェックを受けるルド。
普段通りに、搭乗ゲートへ降りるエスカレーターに向かうルド。
僕は彼の後ろを歩きながらナネッテを見た。
じっとルドを見つめているその顔は、美しい笑顔を絶やさない。
でも僕には見える。
心の中で泣いている彼女の姿が…。
エスカレーターが降りる。
僕はルドに視線を移す。
彼は一瞬、ナネッテを見た。
彼女と目があったのだろう。
彼はすぐに視線を足元に移したけれど、その顔には静かな、本当に静かな微笑みがたたえられていた。
「…。」
エスカレーターは出国審査や税関のあるロビーに僕たちを降ろす。
いつもは饒舌なダイゴも、何となくこの微妙な空気に押し黙ったままで、僕たちは必要最小限しか話さずに手続きを済ませる。
そして、ニューヨーク行きの飛行機の待つ搭乗ゲートへ。
前に進みながら、ルドはポソッと言った。
「お前、何泣いてるんだ?」
指摘されて、僕は慌てて目頭を袖で拭う。
いや、泣いてると言っても、少し目が赤くなっているレベルの話だ。
ナネッテの切なさに、つい貰い泣きしてしまった。
「どうして、キスくらいしてあげなかったの?」
僕は逆に彼に尋ねる。
「彼女はとても求めていたのに。」
僕の言葉に、彼は困ったように微笑んで言った。
「俺たちはそんなんじゃないよ。」
「…。」
「どう、そんなんじゃないかと言うとだな。」
うん。
「俺は彼女と別れるつもりはない。」
「…。」
「というか、付き合ってもいないのだから、別れるもへったくれもない。」
「…。」
「キスしたり、セックスしたりすることが、そんなに重要か?」
「…。」
「セックスする事で、かえって彼女を失う確率は高まらないか?」
「…。」
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