4.帰路

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飛行機の中。 ルドは新聞を広げ、ダイゴは音楽雑誌を読み耽り、僕はコーヒー片手に考える。 いつもの風景だ。 三人共、飛行機がニューヨーク・JFK空港に到着したらそれぞれ家に戻る。 そこではいつも通りの生活が待っている。 ルドも次の仕事までのつかの間、テレーゼや二人の娘たちと賑やかな日々を送るだろう。 もちろんテレーゼは、ルドがクレモナで恋をしてきたなんて知らない。 そして、彼がどのような気持ちでその想いを封じ込め、テレーゼを裏切らずに帰ってきたのかも知らない。 「…。」 裏切らずに? 「…。」 彼は完全にナネッテに心奪われていた。 ただキスやセックスをしなかっただけではないか。 たったそれだけで、裏切らなかった事になるのか? 恋する感情はそう簡単に忘れる事はできない。ルドはこれからも事あるごとにナネッテを思い出すだろう。 それこそ、テレーゼや子供たちと過ごしている時にも彼女の面影が浮かぶかもかもしれない。 それでも裏切ってないと言えるのか? 「…。」 でも裏切りに関して、僕も人の事は言えない。 僕だって今回は、風俗でアヤ以外の女性と“愛のないセックスもどき”をした。 これだって立派な裏切りだ。 他の女性とセックスしたけど、アヤだけを愛している僕。。 彼女との今後をより良いものにするために、ナネッテに恋をしながらセックスをしなかったルド。 さて僕とルド、どちらがより妻を裏切っているのだろう。 心の裏切りと身体の裏切り、どちらが重いのだろう。 「…。」 飛行機は飛ぶ。 ニューヨークでは、どこでバレたか僕の風俗行きを知ったアヤが、悶々と夫の帰りを待っている事を、この時の僕はまだ知らない。 ~fine~
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