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楽屋で書類を広げながらルドが言う。
「あの連中ってコンクールを受けに来てる奴らなんじゃないかな?」
「コンクール?」
僕は燕尾服をハンガーで壁に吊るす。
「確かこのクレモナの音楽祭には、ヴァイオリンコンクールとかチェロコンクールとか弦楽器のコンクールがあったはずだ。」
「へぇ。」
「ほれ。」
彼は僕に一枚のチラシを手渡した。
クレモナ音楽祭のチラシだ。
本当だ。コンクールが音楽祭の大きな目玉になってる。
そして僕のような演奏家によるコンサートに、あっ、弦楽器の展示会もある。
ふーん。やっぱりクレモナのお祭りだけあって弦楽器一色だ。
「明日がコンクールの本選って書いてあるだろ?きっと予選落ちしたヤツが、ついでにお前のレッスンを受けたくて来たんだよ。」
物好きな人もいるものだ。
「それにしても見てみな。お前のしあさってのコンサートが音楽祭の締めだ。」
へぇ。
今日はダイゴのピアノとの共演で、しあさっては地元のクレモナ音楽祭交響楽団とメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を共演する。
「お前が音楽祭のオオトリか。いやぁ、ジム・ブラッキンもエラクなったもんだ!」
ルドは僕の髪をクシュッとしながら冷やかすけれど、話題性があるからそうしただけかなぁと思う。
「それより明日、この弦楽器の展示会に行かない?」
僕はチラシを示しながら言った。
せっかく弦楽器の聖地に来たのだからちょっと見学してみたい。
「そうだな。掘り出し物の楽器があるかもしれんしな。」
ルドはチラシを受けとると頷いた。
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