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スケベな事を思い出して慌ててそれを打ち消すと「とにかく解かった?」とダイゴに言う。
彼はニヤニヤしながら「暖炉の部屋で“僕たち”ねぇ。」と言うと、「何となく伝わった。」と僕の顔を意味深に見た。
何が伝わったのか。
でも自分でも顔が赤くなってるのがわかる。
「やるよ。」
僕は逃げるように譜面台の所に戻りダイゴに弾き始めるように促す。
すると彼は「エキゾチックな官能性をもって。」と言うと鍵盤に指を置いた。
はは、さすがはダイゴ。上手く言う。
ルーマニア民族舞曲は6つの舞曲から成る。
一度聞いたら忘れられない印象的なメロディから始まる重厚な響きの『棒ダンス』。
可愛い女の子が踊っていそうな『飾り帯の踊り』。
フラジオレットという特別な技法を使って、浮遊音みたいな音を出して弾く『踏み踊り』。
何となく妖艶な『角笛の踊り』。
ダメだなぁ。今の僕が弾くと何でもスケベになる。
ちょっと心を入れ換えて思いきりダンスフルにいこう。
拍子がコロコロ変わる『ポルカ』。
この曲は村の青年の弾くヴァイオリンからバルトークが採譜している。ヴァイオリンのためにある曲。体の中にリズムが息づく。
そして間髪入れずに次の曲。題名の通り、踊ると目が回りそうなくらいに速い『速い踊り』。
思わず弾きながら体が踊りそうになる。
速い!速い!
足が絡まりそうだ!
息が切れる!
楽しい!
僕はこの愉快な音楽に笑いが込み上げてきて、思わずダイゴを見る。ダイゴも笑ってる。ハハハ!そうこなくっちゃ!
最後の音を弓を使い尽くして弾ききると、僕とダイゴは顔を見合わせて大笑いした。
それと同時に「ブラボー!」と大きな声がしたかと思うと、「ブラッキンさーん!」と叫びながら、よく知った顔が子犬のようにステージに駈け上がり僕に抱きついてきた。
僕よりちょっと長身の身なりの良い青年、天才ヴァイオリニスト・セルジュ・リヒノフスキーは「久しぶりです!会いたかった!」と僕にしがみつく。
「どうしたんだ?急に。」
本当に驚いて彼に尋ねる。
二人とも年がら年中世界を飛び回っているので、同時に同じ場所にいることは奇跡と言っても過言ではない。
「僕、今ここでヴァイオリンコンクールの審査員をしているんです。ブラッキンさんが音楽祭に呼ばれてるって知ってたから、会いに行く機会を狙っていたんです!」
コンクールの審査員?
こいつが?
世も末だ。
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