2.4年ごとのリヒノフスキー

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イタリアといえばピザ。 楽屋にピザの宅配を頼む。 「いやぁ、リヒノフスキー君とジムがこんなに親しかったとは!」 ダイゴはピザを摘まみながら言う。 「ブラッキンさんにはお世話になってます。」 リヒノフスキーもさっきの涙はどこへやら、すっかり元気にピザを頬張る。 「今日はお母さんは?」 僕は尋ねる。 僕の事を疫病神のように思っている彼の母親がよくココに来ることを許したものだ。 「母は今日は講演会なんです。」 「講演会?」 ルドが尋ねると、リヒノフスキーは「そうです。神童や天才少年少女の親を集めた“天才の親の在り方”という講演会の講師に招かれたんです。」と答えた。 「へー。」 一同感心する。 ダイゴは言った。 「リヒノフスキー君もコンクールの審査員だなんて大変だね。朝から晩まで聴きっぱなしなんでしょう?」 「そうなんです。一次予選の頃は人数も多くて悲惨でした。トイレにも行けないし。今日が予選の最終日だからこんなに早く解放されたんです。」 大変だなぁ。 「君の母上、よくこんな大変な仕事を了承したね。」 ルドが言うがもっともだ。 「了承どころか母の差し金です。ヴァイオリニストとして落ちぶれた時にもちゃんと食べていけるように、こういう教育関連の仕事もしておくように言われました。」 へー。 実力もあり、コネクションもしっかりしているリヒノフスキーが落ちぶれるなんてあり得ないと思うけどなぁ。 「それと母は、若手がどんどん出てきている事を僕に実感させてもっと勉強しろと言いたいんです。“ブラッキンだけがライバルじゃないのよっ!”って言ってましたから。」 厳しい。さすが“天才の親の在り方”に呼ばれる事はある。 ルドが言う。 「コンクールで若手の演奏をたくさん聴いたと思うけど、最近の傾向はどうだい?」 「あぁ。」 彼はコーヒーを飲んで言った。 「ブラッキンさん一色です。」 どういう事だ? ところがルドは平然と言った。 「ここでもジムの弾き方が流行ってるんだな。」 「“流行り”っていうレベルじゃないですよ。」 リヒノフスキーの答えを聞いて、ダイゴが言う。 「皆、ジムの演奏を真似してるんだ。確かに僕も若いヴァイオリニストの伴奏をする事があるけど、ジムの影響が見える時はあるね。」 リヒノフスキーは言う。 「真似レベルでもないんです。組織的に研究されているんです。」
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