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「僕の演奏なんてどこの組織が研究するんだ?」
そう尋ねるとリヒノフスキーは「音楽大学に決まってるじゃないですか!」と言った。
「ジム・ブラッキンのテクニックの秘密をある大学の研究室が調べていて、その結果が“こういう形”で出回っているんです。」
リヒノフスキーはヴァイオリンケースから冊子を取り出して僕に手渡す。
いかにも“プリンターで印刷をして製本しました”という感じの冊子だ。
題名は「ヴァイオリン奏法」。著者は「M音楽院シンドラー研究室」。
なんだ、単なるヴァイオリンの教本じゃないか…と思いながら冊子をめくるととんでもない。
僕の演奏写真、その写真をイラストにしたもの、それを解説したもの、があらゆるページに載っている。
肉眼では速すぎて見えないボウイングの動きや左手のポジション移動などは、ご丁寧に手の動きのストロボ写真付きで解説されている。
そしてフォーム。
自分でも気づかないうちに演奏箇所により移動している足の位置、腕だけでは足りずに背筋も精一杯使って弓を引く姿、次々に変化するヴァイオリンを持つ角度…とにかく僕の奏法が事細かに解剖されている。
「…。」
自分が自分の知らない所で丸裸にされているみたいであまり良い気持ちがしない。
「きれいなフォームだね、顔がなかったら。」
そんな僕の気持ちを察したのか、ダイゴが冊子を覗き込みながらおちゃらけて言う。
「…。」
「そうだな。それともうちょい足が長かったら良かったのにな。」
ルドもニヤニヤと冊子を眺めながら言う。
「…。」
「この冊子によると、ブラッキンさんは自分の力はあまり使わないで、引力だとか遠心力だとか作用反作用だとかの自然の力を最大限に利用してるらしいですね。」
リヒノフスキーは言うけど、僕は物理は『滑車』の単元で脱落してるから自覚はない。
「そのうちに“地球”から重力の使用料の請求書が届きますよ!」
そんなの知らない。
「でもどうして君がこんなのを持ってるんだ?」
僕の質問にリヒノフスキーは、「この著者のM音楽院のシンドラー教授はこのクレモナのヴァイオリンコンクールの審査員なんです。で、“ブラッキンのような他力本願な奏法だと、筋力が弱る老後になっても弾けるから参考にしなさい。”って押し付けられたんです。」と答えた。
ふーん。
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