2.4年ごとのリヒノフスキー

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僕は言った。 「じゃ、コンクールでは皆この冊子みたいな弾き方をしてるんだ。」 「皆とは言わないけど、でもこ~んな弾き方をしてる人が多いですよ。」 リヒノフスキーはヴァイオリンを水平に構える格好をし、一点を見つめながら口を尖らせて大きくビブラートをする僕の癖を真似しながら答える。 僕は「それ、誰?」と呟きながら、彼の頭をパコンと小さく叩いてやった。 ルドは「似てる、似てる。」と笑いながら「まぁ、野球選手でも何でもそれなりの選手は相手チームから研究されるわけだし、それと同じでジムが研究されても珍しい事ではないだろう。」と僕の手にある冊子を奪って言う。 「そうだよ。僕だって若い頃は好きなピアニストの演奏を真似してたよ。研究されるのは、ある意味演奏家冥利な事なんじゃない?」 ダイゴの言葉にルドは大きく頷いた。 「…。」 あまり気に止める事はないのかな? ルドは大した事ではないように捉えているようだし。 ルドが騒がないんだったらまぁいいか。 「さぁ。そろそろ準備をするか。リヒノフスキー君はどうするんだ?」 ルドが椅子から立ち上がりながら言うと、リヒノフスキーは「僕は舞台袖で聴かせてもらえますか?ブラッキンさんと積もる話もあるし。」と答える。 積もる話? なんだろう。リハーサルの時の涙と関係あるのかな? 「了解。じゃ、俺はちょっと客席の様子を見てくる。」 ルドが言うとダイゴも立ち上がり「僕もそろそろ着替えるよ。」と二人揃って部屋を出て行った。 僕は空になったピザの箱を小さく折り曲げながらリヒノフスキーに聞く。 「何かあったのかい?」 「…。」 さっきまでの饒舌ぶりはどこへやら。リヒノフスキーは口をつぐむ。 「ん?」 「ユウコさん…。」 ユウコとは僕と同じ年の女流ヴァイオリニストの事だ。 「ユウコさんに恋人ができたんです。」 ほお、良かったじゃないか。彼女は数年前に恋人に先立たれ、かなり落ち込んでいた。 って、あれ? リヒノフスキーが涙をポロポロ流している。 「僕というものがありながら。」 彼はそう言いながら僕に抱きつき、僕の肩に涙をギュッと押し付けてきた。 「君とユウコ、付き合ってたの?」 「ううん。でも僕は彼女を愛しているんです。」 何となく憧れていたのは知っていたけど、愛? 驚いた。
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