『雅』

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誰かをフったりすることは、決して楽しくない。 端から見れば、フった奴が沈んでいるのは滑稽かも知れない。 でもな、きっとフラれるよりフるほうがつらい。 本気を受け止めていたのなら。 俺は朝にようやく自分の家にたどり着いて、大学もいかずに眠りこけた。 恋愛なんて面倒だ。 思うようにいかないことばかり。 仲間と馬鹿騒ぎしているほうが楽だ。 なんて…。 それでも俺は恵梨子の腕の中にいる感触を、恵梨子の肌にふれる感触を思い返してしまう。 自分の感情のコントロールなんてできるかい。 きっと俺は、初めて会った時から恵梨子にはまってた。 水曜日以外はつまらない毎日。 大学が楽しいとは思わない。 上京してよかったと思えるのは、恵梨子と出会ったこと。 メールをしても電話をしても繋がらない。 水曜以外の待ち合わせ場所にいって待ってみても、くるかどうかもわからない。 来ないことのほうが多い。 恵梨子からもらった名刺を眺めながら、Officeと書かれた番号に電話してやろうかとも思った。 あまりにストーカーじみていて、さすがにできなかったけど。 俺はたぶん、シオリと似ている。 好きなものしか見えない。 相手に重いと思われても仕方のないことをしてしまう。 けど…、好きなんだから…、望む答えをもらえないんだから仕方ないだろ? 毎日会いたい。 毎日声を聞きたい。 隣で眠りたい。 恵梨子からもらった金で指輪でも買って渡したろか。 恵梨子が悲鳴あげてやめてって叫ぶ姿が目に浮かぶ。 ……なに拒否られる姿を想像してる?俺。 けど、どう考えても泣いて喜んでくれるとは思えない。 なに?その体、ぜーんぶ知り尽くす仲なのに、片思いか?俺。 片思い以外の何がある? 更に更にどん底へ一人妄想の中、たたき落とされていく。 その上にふりかかるのは、シオリの気持ちを弄んだ天罰ってやつなのか。 水曜になっても、その次の水曜になっても、恵梨子は待ち合わせ場所に姿を現さなかった。 なに?俺、フラれたん? 猛暑近づく図書館の階段で、なんとなく気がついたのは1ヶ月も過ぎてからのこと。
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