『雅』

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会いたい。 何度メールしただろう? 会いたい。 電話はいつからか圏外になっていた。 ストーカーにはなりたくない俺は、連絡をとろうとすることも諦めて、けれど相変わらず図書館の階段に座っていた。 あれだ。忠犬だ。 現れない飼い主を待っている。 ……なんなん、それ? やっぱりストーカーやん、俺っ。 夏休み、もっと楽しめよ、俺っ。 猛暑の中、そんなことをただ繰り返し考えている俺は病んでいると思える。 ぼーっと毎日図書館にきては、来ない人を待つように座っていた。 「ミヤビ」 名前を呼ばれて期待して顔をあげると、そこにはシオリがいた。 白いワンピースに細身のブルージーンズ、栗色の髪はふわふわと風に揺れる。 これがシオリだ。 俺に惚れるはずもなさそうな、いいとこのお嬢様。 恵梨子とはタイプ違うけど、モテない女ではなさそうだ。 「なんやねん、シオリか…」 俺はあからさまに肩を落として俯く。 「なんやねんとはなんやねん。…ミヤビ、関西弁のほうが似合うー」 シオリは俺の隣に座り、持っていた女もののファッション雑誌を広げる。 「……ちょお、なんでおまえ、俺の隣に…」 「べっつにいいじゃん。あたしをフってくれた人はミヤビが初めてよ。そんな人に声かけてやったんだから感謝しなさいよね」 「なんなん、その変な理屈。本読むんやったら中に入ればええやん。冷房きいとるで」 「ここがいいの。あ、見てみて、これ」 シオリは馴れ馴れしく俺の腕を引っ張ってくる。 女もののファッション雑誌に興味はない。 「最近出たブランドなんだけど、雅っていうの。ミヤビと同じ名前。かっこかわいくない?」 シオリは俺の目の前に雑誌を広げた。 いやでも視界に入るその雑誌。 でかでかと俺の名前が載っている。 確かに…、俺好みかなと思う服。 シオリは俺が見たのを確認すると、自分の手元に戻してページをめくる。 俺は思わずシオリの手からその雑誌を奪った。 はぁっ!?なんやねん、これっ!! その記事にはデザイナーが載っていて、簡単なインタビューが載っていた。 そう。そのデザイナーが恵梨子だった。
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