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大学2回、二十歳の夏。
彼女と俺が出会ったのは、運命なのか偶然なのか。
一人、大学を囲む塀を背に、俺は手にした携帯を眺めていた。
人通りはさほど多くはない。
目の前の車道も、あまり車通りがない。
こない…?くる…?
俺はひたすら携帯を見ていた。
すると、俺の思っていたことが通じたのか着信。
画面にはシオリと出ていた。
……違うしっ。
俺は思っていたのと違う名前に少し苛立ちながら、通話ボタンを押した。
「なに?」
『あ、ミヤビぃ。やっと電話に出てくれたと思ったら、彼女に対してその迷惑そうな声なんなの?』
不満気に言いつつも、どこか弾んだ声でシオリは言ってくる。
あー、彼女ね。そういや彼女だったな。
俺は溜息をつきながら、大学の前から歩き出す。
約束はしていない。
けど、待ち合わせ場所にいくくらいいいだろ?
俺の自己満足だ。
耳元に聞こえるシオリの電話越しの声に、適当に相槌を打ちつつ、俺は歩道を歩く。
繁華街と呼ばれるところからは少しはずれた場所に大学はあり、学生くらいしかあたりに人は見かけない。
緑に茂る木々の並木道を歩き、俺は目的地である図書館へとたどり着いた。
どこの町にでもある市立図書館っていうやつだ。
『ねー、ミヤビ、聞いてる?明日、講義早く終わるんでしょ?遊びにいこうよ』
「あー、明日は無理」
『またぁ?水曜、毎週じゃない。何してるの?』
シオリに聞かれても答えられるはずもない。
俺はどう答えてはぐらかそうか考えながら、図書館と市民ホールの間の長い階段を上る。
「バイト」
俺は答えた。
『なんのバイト?』
やっぱりそうきたか。
俺はどう答えようか視線を漂わせ、珍しく車道を走る車の音に、上ってきた階段を振り返る。
その車はまっすぐにこの階段の前まできて、俺は携帯を握った手を下ろし、シオリに何も言わずに通話を切った。
「雅、ごめんっ。待たせちゃった?」
車の運転席から降りてきた女は階段の上にいる俺に向かって頭を下げた。
薄色のタイトスカートスーツにパンスト、ハイヒール。
親のすねかじりの学生をしている俺には別世界だ。
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