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俺が金を受け取らないと恵梨子は悲しそうな顔を見せる。
いい加減、俺が金に釣られて恵梨子に会ってるとは思われたくないのに。
あの出会いの時に男にフラれた同情なんて俺がするはずもない。
俺はただ、恵梨子と一緒にいたいと思うから、ただそれだけで会いたいと願うのに。
水曜、恵梨子の部屋で大きなベットに座って、受け取った金を宙へと放り投げて、ぱたんっとベットに転がった。
いらんもんはいらん。
恵梨子から金をもらわんでも、俺の生活、仕送りとバイトでじゅうぶん暮らせている。
「あーあ。もう。雅、お金は大切に扱わないと」
恵梨子は俺が投げた金を拾い集める。
「なぁ?金いらんから、泊まっていってもええ?」
俺は甘えるように聞いてみる。
「まーた言ってる。一人暮らし淋しいの?」
「そうでもない。やけど、恵梨子、こんなええマンション広すぎて淋しない?俺、いつでも住み込むで?」
俺が笑顔を見せて言うと恵梨子は笑って、遠慮するとでもいうように両手を横に振る。
俺、恵梨子だけのもんでいたいんやけど…。
思いつく言葉はどこかくさくて、やっぱり言えるもんやなかった。
「恵梨子、ええやん。なぁ?」
俺は恵梨子を腕に抱き寄せて、さっきの続きでもしようかと、唇を恵梨子に寄せていく。
恵梨子は笑いながら、小さくだめだとか声をあげる。
このまま押し切ってやろうとしていたのを止めるかのように、いきなり机の上に置かれた俺の携帯が震えた。
サイレントバイブにしていたとはいえ、机の上で揺れるとブーブーうるさい。
「電話じゃないの?」
恵梨子は鳴り止まないバイブの振動に俺を見る。
「ほっといたらええやん。今は俺がここに住みこむためにやな…」
「でも切れる様子ないし…。私がああやって放置されたら嫌かなって…」
恵梨子の言葉に俺は溜息をついて立ち上がる。
「恵梨子から電話くれへんやん。待ち合わせ場所いったらおるだけ。俺がメールするだけ。返事もなし。ええけど」
俺は恵梨子への不満をぶつけながら、携帯を手にした。
心のどこかで予想していたとおり、相手はシオリだ。
シオリのこと、はっきりせなあかんと思いながらも、放置ばっかり。
最低やなと思いつつも、切り出す言葉もない。
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