『雅』

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シオリをキープしてるわけでもないし、そのつきあいに意味はないと思っている。 携帯は留守電にかえるとメッセージもなく切れた。 またかけ直してくる。 恵梨子の視線を感じながらも、今度は出てみた。 「はい?」 『ミヤビ…。どうして電話出てくれないの?メールも返事してくれないし』 俺が恵梨子に言った文句のような言葉が聞こえた。 そのシオリの言葉に答えるのなら、興味がないから。 けど…、それって恵梨子もなのか? 俺に興味がないからメールの返事もない? …あぁ、わかる。 電話もメールもない嫌な気持ち。 わかっていて、やってしまう。 「ごめん。今、バイト先だからまた後でかけ直す」 『…わかった。何時くらいになる?』 「それは…ちょっと…」 俺はだって恵梨子を口説いていたところだったから。 恵梨子に会話の内容を聞かれないように、恵梨子に背を向けて少し離れるように歩く。 『…わかった。待ってるね』 「じゃ…」 俺は通話を切って溜息をつく。 そのまま頭を抱えるように前髪をかきあげて、恵梨子のところへと戻ると、恵梨子は俺を見上げて笑いかけてきた。 「彼女?関西弁使わないの?」 「…俺の本性見せてる女は恵梨子だけですぅー。なぁ?なんで…、あの時、図書館にいて俺に声かけたん?なんで俺やったん?」 「んー…。たまたまそこにいたから。ナンパなんてそんなものでしょ?」 聞かなくてもわかっていたようなことを言われた。 運命とか必然とか言ってくれたら喜ぶのに。 俺は恵梨子の背中に腕を回して抱き寄せる。 俺の気持ち、本当は伝わってるんちゃうん? 割り切りの関係にしたいのは、1年前の男がまだ忘れられへんの? 聞きたいことは山ほどあるのに、聞けば聞くほど俺が落ちていきそうで怖くて聞けへんかった。 俺は…、恵梨子だけでええねん。 割り切った関係なんて…俺は最初から望んでへんねんでっ? 「…帰るわ。今日は金も送りもいらんから」 俺は自分の感情をなるべく押さえて、恵梨子から離れた。 服を着て、玄関へと向かう俺の背中に恵梨子の手が押し当てられた。 振り返る俺のジーンズのポケットに金が押し込められる。 もう……勘弁してや。ほんまに。 俺の気持ち、どうしたらええねん?
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