『雅』

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逆援交…。 俺はデリホスでもない。 5万ももらえるほどいい男でもない。 金ですべてを割り切れるほど大人でもない。 恵梨子は、なんで…。 俺は本人に何も言えないまま、恵梨子の家を出て、自分の家に向かって歩く。 家は遠い。 恵梨子の家から最寄の駅を通り過ぎ、歩きながら携帯を取り出す。 着信履歴はシオリの名前ばかりで埋まっている。 彼女…って、なんなんやろな? 電話をかけてみると、コール2回でシオリは出た。 「起きてた?」 『うん…。ねぇ、ミヤビ、あのねっ』 「……別れる?」 『…なん…で、そういうこと言っちゃうの?あたしは別れたくないっ』 俺の切り出しは唐突過ぎたかもしれない。 別れたくないと言われると、次の言葉は何も浮かばない。 『…ミヤビ、あたしのこと嫌い?あたし、重い?ミヤビに好きになってもらえるようにがんばるからっ』 がんばる…か。 人の気持ちががんばりで報われるのなら、俺だって…。 結局…、なるようにしかならない。 タイミングだろ? 俺がもし恵梨子と出会っていなければ、シオリとうまくやっていたかもしれない。 でもたぶん、恵梨子と出会っていなければ、俺はシオリともつきあっていなかっただろう。 『ねぇ…。何か言ってよ。そんなにあたしのこと嫌い?』 「嫌いじゃない」 重いとも思わない。 全部俺が悪い。 『じゃあ、別れないよね?冗談だよね?』 「本気。シオリ、ごめん。他に好きな人がいる」 俺は正直に答えた。 『水曜日に会ってた人?』 「…そう。ごめん」 『二股…?』 「たぶん違う。割り切った関係」 『……最低』 低いシオリの声に俺は頷く。 いくらでも罵っていい。 許してくれなくてもいい。 最初からシオリのことを好きだからつきあったわけじゃなかった。 罵りの言葉を受け止める覚悟でいたのに、電話の向こうのシオリは泣き出した。 俺も…恵梨子にフラれた時には、こんなふうに泣くかな? 「シオリ、ごめん。ごめんな。ごめん…」 何度でも繰り返す。 『…もう……いい。ばいばい』 シオリのその言葉のあと、プツリと通話は切れた。 傷つけたのは…、俺だから。 俺を好きになってくれてありがとう。
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