21人が本棚に入れています
本棚に追加
「貴様がああああ!」
AがBの喉を掻き切ろうと手に持った大きなナイフで斬りかかる。
「雑魚が!」
Bはギリギリでそれを避けると鋭い足払いを放つ。が、そこには既にAの姿はない。
次の瞬間
「らぁっ!」
という声とともにBの側面から数本のナイフが高速で飛翔する。
しかしBはこれをまるで解っていたかのように避けると一気に距離を詰め手に持った錫杖でAの頭を突く。
それはAの額に見事に命中した―――――――――かのように思えた。
倒れ込むようにして錫杖の一撃を避けたAの足がBの顔面めがけて跳ねあがる。
しかしBはその不意打ちをも後方に跳躍することによって避ける。
そのまま倒れこむかと思われたAも地面に手が着くと器用に体制を立て直す。
「少しはマシになったと言うことか、面白い」
そう言いながら、体制を立て直すなり飛びかかってきたAの――練気が込められた、本来なら一撃必殺の威力を持つであろう拳を左手で平然と受け止める。
「しかしまだ私の足元にすら及ばない」
「かっ――」
Aの視界が回転した。
地面に叩きつけられた衝撃で強制的に肺から空気が排出される。
「その程度の腕で私に逆らうな。目障りだ」
Aの頭を砕くようにして錫杖が振り下ろされる。
避けられるはずのないその一撃にAは死を覚悟し、その目を閉じる。恐怖は無かった。
ただ、ついに仇を討てなかったという悔しさのみが頭を支配していた。
リン、と澄んだ鈴の音が聞こえた気がした。
「うあああああ!!」
この状況では聞こえるはずのないBの悲鳴。その声を聞いた瞬間からAは目を開けていたが、現状を理解するまでに数秒がかかった。
Bの錫杖を持つ――否、持っていた両腕が綺麗にに切断されていた。
「何故……何故だ!何故貴様がここにいる!?」
Bが何かに向かって叫ぶ声。
Aがその視線を追えば女が居た。
幻覚だ、Aはそう思った。これは自分が死ぬ直前に見ている都合の良い夢なのだと。
だって彼女居るはずがない。その光景は都合が良すぎる。
Aが良く知る
Aが知るかぎり最も 強い
そしてAにとって何よりも大切な
目の前に居るBに殺されたはずの女が。
「ただいま……A」
凛とした以前のままの姿で、確かにそこに立っていた。
最初のコメントを投稿しよう!