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あと10キロもあれば、彼女の待っている病院へとついてしまうというのに、いっこうに話し掛ける一言が見つからない。
自分の引き出しをいくら探しても、重箱のすみをつついても。
『なあ、おまえなら彼女になんて声かける?』
差し迫った時間、苦し紛れに、恥をしのんで彼に聞いてみる。
『よっ!』
いかにも反射的に返した言葉にしか、聞こえない。
『それだけかよ。聞いたのが間違いだった』
『なんだよ、おまえから聞いといて。格好つく言葉でも言いたいのか、この三枚目』
先程までとはうってかわり、自然と僕ら二人に笑顔が戻ってきた。
あの頃と変わらない、元気でお茶らけた姿を彼女に見せて、ほんのわずかでもいい、笑ってもらいたい。
ただそれだけ、僕も彼も同じことを考え、そして祈っているにちがいない。
違いない、きっと。
『待たせたね、シンデレラ』
しょうもない一言で、彼女を笑わせてあげよう。
病院についた頃には、すっかり雨も上がり、空半分に青空が広がっていた。
(END)
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