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「いつもの事・・ですか。慣れてらっしゃるんですね」
30代は半ば、肌の色は褐色で、世間一般的にいうところの“色男”といった風貌のバーテンダーはそう女に言うと、去って行った男のグラスを下げた。
「慣れてる・・かぁ・・・。仕方がないのよ、くだらない男が多いから」
女は上ってゆくタバコの煙を目で追いながらそう言い放つと、グラスに半分ほど残っていたカクテルを一気に飲み干し、姿勢を正して、
「さて、今日は飲もう、ねぇ、付き合って」
グラスを前に差し出し、褐色のバーテンダーに誘いを掛けた。
平日の深夜。
忙しくしていてもおかしくない時間帯だが、週初めという事もあってか客は女一人しかおらず、店内には落ち着いた雰囲気の中、カルメンのハバネラが軽快に流れている。
金魚たちは静止したまま浮き沈みを繰り返し、エアーポンプの気泡だけが勢いよく昇ってゆく・・
「ええ、いいですよ。僕でよければ」
褐色のバーテンダーはグラスを拭きながら快く誘いを受け入れ、女の灰皿を替えた。
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