1人が本棚に入れています
本棚に追加
『秋』
昨日まで燃えていた野が、
今日茫然として、曇った空の下につづく。
一雨毎に秋になるのだ、と人は云う。
「俺さ、お前の妹がほしい」
「はぁ? 何言ってんだよ」
「くれよ、妹」
「やだよ、僕の妹だもん」
「んだよーけちだなぁ」
あいつの妹。俺達より2歳下。
容姿はものすごくいいってわけでもないが、それなりにいい。
何よりも、真っ白だ。それがいい。
「あの、えっと―――第2ボタン下さい!」
卒業式の後、帰ろうとした俺を引きとめたのが、あいつの妹だった。
いや、他にも何人もの女に引きとめられたが、無視していた。
―――やっと来たか。遅かったな。
「いいよ」
ハサミもカッターも持っていなかったので、頑丈に留められたそのボタンを力任せにぶちっとやり、手渡した。
「ほ、本当に、いいんですか?」
「いいよ。ほしいんだろ」
「有難うございますっ!」
不安げだったその顔が、ぱぁっと明るくなる。濡れた瞳でこっちを見るな。
最初のコメントを投稿しよう!