2/7
前へ
/7ページ
次へ
   『秋』   昨日まで燃えていた野が、   今日茫然として、曇った空の下につづく。   一雨毎に秋になるのだ、と人は云う。  「俺さ、お前の妹がほしい」  「はぁ? 何言ってんだよ」  「くれよ、妹」  「やだよ、僕の妹だもん」  「んだよーけちだなぁ」  あいつの妹。俺達より2歳下。  容姿はものすごくいいってわけでもないが、それなりにいい。  何よりも、真っ白だ。それがいい。  「あの、えっと―――第2ボタン下さい!」  卒業式の後、帰ろうとした俺を引きとめたのが、あいつの妹だった。  いや、他にも何人もの女に引きとめられたが、無視していた。  ―――やっと来たか。遅かったな。  「いいよ」  ハサミもカッターも持っていなかったので、頑丈に留められたそのボタンを力任せにぶちっとやり、手渡した。  「ほ、本当に、いいんですか?」  「いいよ。ほしいんだろ」  「有難うございますっ!」  不安げだったその顔が、ぱぁっと明るくなる。濡れた瞳でこっちを見るな。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加